樫の木の恋(中)
はち
「貴様ら。」
翌日、皆が集まると、秀吉殿が殺気を振り撒きながら声を出す。
皆何か怒られるような事をしてしまっただろうか、と首をかしげる。
「……忘れろ。」
「……?」
「昨夜の事は思い出すな!わしの痴態を誰にも話すなよ!全て忘れろ!」
秀吉殿は殺気を振り撒きながらも、顔を少し赤くしている。昨夜飲み過ぎて、自らの印象が崩れてしまったことを恥じているのだ。
朝、起きると秀吉殿は自らの行いを凄く恥じていた。
もう皆に顔を見せられないと、ずっと言っていたくらいだ。
顔を見せたら見せたで、今度は忘れろという。
別にそれがしは、完璧主義者で鬼という印象の強い秀吉殿に、今回の件で皆親しみを持てるのではと思うが。
「……誰かに話してみろ。即刻叩き斬ってやるからな。」
殺気が辺りを埋め尽くすが、それに迫力などない。
皆昨夜の秀吉殿を思い出しているのだろう。皆口元がにやついている。
「あっははは!秀吉殿面白かったですものね!」
「か、官兵衛!叩き斬るぞ!」
「それがしは配下ではないですもの。」
「う、うぐぅ…。」
何も言えなくなってしまった秀吉殿を見ると、また顔を染めていた。
「あの後、半兵衛と助平な事をされたのですか?」
「し、しとらん。」
「おやおかしいですね。半兵衛が、薄い黄色の羽織など似合いそうと言いながら、助平な事をしてる音がしたのですが。」
「なっ!」
「官兵衛!貴様、盗み聞きしていたのか!!」
それがしが声を荒げると、官兵衛が大きく笑う。
「昨日あのように言われたら、気にならない方がおかしい。盗み聞きをしに行ったのはわしだけじゃないんだがなぁ。」
秀吉殿はもう恥ずかしさで、倒れてしまうんじゃないかというほどだった。
「官兵衛と共に盗み聞きをしに来た奴ら、ここに全員並べ。したのに、嘘でもつこうもんなら斬るからな。」