樫の木の恋(中)
翌日、官兵衛と秀吉殿と共に久しぶりの岐阜城へと向かった。
官兵衛を大殿に謁見させるための付き添いなのだから、秀吉殿とそれがしは緩い気持ちで岐阜城へと向かう。
ようやく岐阜城について、大殿のいる部屋まで歩いているというのに、官兵衛はやはり厳しい人だと聞いているからか、緊張しているようだった。
「大丈夫。なんだかんだ優しい人だから。」
「いやいや、噂だけならただの鬼じゃがな。」
それがしが励ましても鬼という印象が強いようだった。
まぁ比叡山の焼討ち、皆殺し、すぐに町を焼くし、余りにも印象が悪い。それに現に厳しい人ではある。怒ったら秀吉殿よりも怖いし。
「大殿の悪口は許さんぞ官兵衛!」
そう言いながらもにこやかな秀吉殿は、わだかまりの解けた大殿に会えるのが楽しみなのだろう。妬けてしまうが、恩人としてなので仕方がない。
「秀吉殿は織田殿のこと好きですよねぇ。よく織田殿の話するし。」
「当たり前じゃろ。織田家の主君なんじゃから。」
「半兵衛は?」
くるっとこちらを向いて、官兵衛が問うてくる。
「んー…。そうじゃなぁ。それがしは最初から織田家に仕えているというより、秀吉殿に仕えている感じだからなぁ。尊敬はするが、そこまで大殿と関りがないからなぁ。」
いや、本当は秀吉殿を取り合った仲だ。
嫌いではないが、嫌ではある。今日だって秀吉殿は大殿に会える事を楽しみにしているし、いい気分ではない。しかしそれは今口にすることではない。