樫の木の恋(中)
秀吉殿は酒のせいなのか、大殿のせいなのか顔を赤くしていた。
大殿は何も気にせず酒を飲み、官兵衛はぽかんとしている。
「秀吉、顔が赤いぞ?なんだもう惚れてしまったか?」
「ち、違っ!」
「可愛いもんじゃなぁ。お主は昔からすぐに顔を赤くする。」
昔からという言葉を大殿はわざとらしく使った。きっとそれがしに聞かせたようなものだろう。
それがしが苦しくなるように。
だから、これは大殿に対する嫌がらせの意味もある。
「は、半兵衛!」
ゆっくりと秀吉殿を二人の目の前で後ろから抱き締め、大殿に口付けされた秀吉殿の手の甲を手拭いで拭い、同じところに口付けをする。
「おーおー。半兵衛は案外怖いもんじゃのぉ。嫉妬心の塊ではないか。」
「それがしの秀吉殿ですから。」
にこやかに言葉を返すと、大殿は面白そうに笑った。
「半兵衛は度胸があるのぉ!わしに対してそのように喧嘩を売るとは!さすが我が織田家一番の軍師じゃ。」
秀吉殿がそれがしの顔を不安気に見上げてくる。きっとそんなことを大殿に言って大丈夫なのかと心配してくれているのだろう。
大丈夫だと伝えるために、秀吉殿に笑いかける。