樫の木の恋(中)
「お二方共、そんなに火花を散らされては、秀吉殿があたふたしておられますよ?」
ぽかんとしていた官兵衛がようやく口を挟む。面白いものでも見せてもらったかのように好奇の目を見せてくる。
「そうですよ!大殿も半兵衛もそんな恥ずかしい事を平然と言うんですから!」
秀吉殿がそれがしの腕の中で、声をあげる。
「恥ずかしい事?別にお主に己の心を伝えることは恥ずかしい事ではなかろう?のぉ、半兵衛。」
もう一度不敵に笑う大殿。
「そうですね。心を寄せている方に、それを伝えて何が恥ずかしいのです?」
秀吉殿の耳に触れるくらいの距離で言葉を発すると、秀吉殿が顔を赤くして、声を出さないまでももぞもぞとしている。
「か、官兵衛もおるのに…。」
それがしと大殿から責められ、言い淀む秀吉殿。
すると、官兵衛が助け舟を出した。
「秀吉殿は大変ですなぁ。織田殿にも半兵衛にも迫られて。いやはや美しいのも考えものですな。」
うんうんと腕を組み頷きながら官兵衛が一人で勝手に納得している。
その間もそれがしの息が耳に当たるのか、それからこっそりと逃れようとしているが、それがしに抱き締められた状態では逃げられない。