樫の木の恋(中)
北ノ庄城に着き、一泊させてもらう事になっていた。
「羽柴殿、柴田殿がお呼びです。」
北ノ庄城についてすぐ、小姓が呼びにきた。
「まぁ呼ぶわなぁ。」
「先程顔合わせしたときに、お話しされれば良かったのに…。」
「他には聞かれたくないんじゃろうよ。半兵衛、気まずいなら来んでもいいぞ?」
「それがしは秀吉殿をお守りする立場ですから、勿論お供しますよ。」
「ふふっ。なら、頼むな?」
秀吉殿の後をついて歩く。小姓や女中に至るまで、通りすがる秀吉殿に好奇と嫌悪の目差しを向けてくるが、そんなものは意に介さず、柴田殿の部屋まで来ていた。
柴田殿の部屋に入ると、この間と同じように滝川殿が柴田殿の斜め前に座り、この間はいなかった佐々殿もいた。
「おや、今回は佐々殿もおられるのですね。なんでしょう?警戒されているのですか?」
思わず嫌味を口に出す。すると、中にいた三人は顔をしかめるが、それとは裏腹に秀吉殿は楽しそうに返答してきた。
「それはおかしいぞ、半兵衛。この間斬られたのはわしの方なのじゃからなぁ。警戒するべきは、わしらのほうじゃよ。」
「それは…!」
佐々殿が反論しようとするのを滝川殿が止めた。秀吉殿は殊勝な顔をして、柴田殿を上から見る。
「まぁ座れ。」
促され、秀吉殿とそれがしは柴田殿の前に腰を下ろした。