樫の木の恋(中)


これで、この場は収まったかに思えた。
しかし次の瞬間秀吉殿は思いもよらぬ発言をした。



「でしたら、それがしの隊だけ撤退します。」



思わず皆言葉を失った。そんなことしたら自らの立場が危うくなることくらい秀吉殿も分かっているはずなのに。

「うちの兵士達は無駄死にするためにいるのではありません。負け戦などに出せるほど安くない。」

さすがに誰もなにも言えなかった。
これ程今までたくさんの戦をして、輝かしい功績もたくさん残してきた秀吉殿が断言したからだ。

「秀吉…本気か?いくらお主でも、大殿のお怒りは免れんぞ。」

「別にそれがしがどうなろうと構いません。無駄死にをさせるよりはましです。」

言いきった秀吉殿はくるっとこっちを向く。


「半兵衛!うちの隊に伝達しろ。これから撤退する。これ以上長居する必要はない。今すぐ帰る。」

「秀吉殿、正気ですか?」

さすがにそう言わざるをえなかった。すると秀吉殿は冷たい目を向けてくる。

「残りたいなら残ればいい。しかし兵士はやれん。」

「いえ…口が過ぎました。今すぐ撤退の準備をさせます。」

「分かればそれでいい。」

二人で軍議の場から出ようとすると、柴田殿が止める。

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