樫の木の恋(中)
「秀吉、今ならまだ引き下がれるぞ?」
「何の心配です?人の心配より、ご自身の負け戦の心配をされた方が良いのでは?」
哀れみの目を向けたまま言い捨てる秀吉殿に柴田殿は怒鳴った。
「ふざけるな!お主がいなくとも、上杉など葬ってやるわ!」
「…左様ですか。では、頑張ってくだされ。」
そう言って軍議の場を去って、早足で自らの隊へと向かっていった。
「半兵衛、お主この戦、勝てると思うか?」
早足で歩くなか、秀吉殿が静かに聞いてくる。
「城をとられているため厳しい戦いになるでしょう。しかしこの兵力なら勝てるやもしれません。上杉家の援軍が来なければの話ですが。」
「いや、来るじゃろう。七尾城は長期戦になっていた。次々と援軍を送り込んでいても不思議ではない。」
援軍が来たら、勝ち味に薄いだろう。徹底的に戦の前調べをしてからでしか戦わない秀吉殿には、此度の戦退くのが正解なのだろうな。
しかし大殿に怒られるのは目に見えていた。