樫の木の恋(中)
二日もしないで小谷城に帰ってきていた。
秀吉殿は誰もそれがしですら寄せ付けないほど、ぴりぴりと苛立っていた。
皆腫れ物に触れるような扱いをしていて、官兵衛が来たときのような柔らかい雰囲気など微塵もなかった。
「殿、怖いですね…。」
「ああ、ずっとあんな感じで正直どうしたらいいか分からん。」
秀吉殿に用があった清正がそれを終え、それからそれがしの所へ来て書状を手渡しながらぼやく。
「どうなってしまうんでしょうか?」
おそらく秀吉殿の処遇の話だろう。
柴田殿はあれからすぐに上杉家と衝突し、上杉家の当主上杉謙信がすぐに率いてきた援軍によって敗北していた。
大殿は秀吉殿がいれば負けなかったと考えているだろう。柴田殿もそのように伝えているはずだ。
それでなくとも勝手に撤退してしまった上に、負けたとあっては最悪城を没収されかねない。
「しかし殿は負けると分かっていて、無駄死にはさせられないからと、我らのために撤退をしてくださったのに…。」
被害は甚大だったようで、もし秀吉殿が出陣すると決めていたら被害は相当なものだったろう。
しかし撤退してくれたことにより無い。
結局上杉家を甘く見なかった秀吉殿が正解だったのだ。
しかし大殿の命に逆らった罪は重い。