樫の木の恋(中)
大殿に呼ばれ、秀吉殿と共に安土城に来ていた。
大殿は観音寺城を大きくし、天下泰平のため安土城に拠点を移していた。
道中秀吉殿は一言も話さなかった。
もう何日もまともに会話をしていない。
「よう…秀吉。」
小姓に案内された部屋には大殿がいた。そしてそこには明智殿も何故か同席していた。
大殿は見るからに怒っていた。部屋に充満した殺気に思わず身が凍えるほど。
無言のまま大殿の前へと腰を降ろし、手をつく。
「秀吉、お主わしの命に背いたらしいなぁ?」
びくっと秀吉殿の肩が跳ねる。怖い柴田殿に殺気を向けられても何にも臆しないと言うのに、やはり大殿には頭が上がらないようだった。
「…しかしあれは負け戦です。」
「お主が行けば勝っていたやもしれんな。」
「……上杉家の援軍が来ていたのでは、勝機は…」
「黙れ!言い訳はいらん。勝てなくとも、お主も行っておれば被害は最小限に抑えられたんじゃ。」
大殿のおぞましい程の殺気に秀吉殿は何も言えなかった。秀吉殿が口を開かないのは、大殿の言う通り秀吉殿も行けば、全体的な被害が少なかったと分かっているからだろう。