樫の木の恋(中)
「すみませぬ!」
大広間に入ると同時に、大殿の顔が見えるよりも先に秀吉殿が大声で謝罪を述べる。
それにならい謝罪を述べながら、即座に正座をし頭を下げる。
ぴんと張った空気の中、大勢の家臣達からの冷たい視線が痛々しい。
「お主ら…わしが開いた評定に遅刻した奴など初めてだ。」
「す、すみませぬ!」
大殿の声はどこまでも厳しくて、思わず縮んでしまう。
少しだけ頭をあげ、ちらっと大殿の顔を伺う。
すると、驚いたことに大殿の顔は厳しい声とは裏腹に面白がっているようだった。
秀吉殿はそれには気づかずに頭を下げ続けている。
そもそも自分達が起きてこなければ、小者や配下である三成や清正が起こしに来るはず。それが無かった事を考えるともしかしたらこれは大殿が仕組んだ事かもしれない。
「秀吉、罰としてこれからする質問に全て正直に答えろ。」
「え…?」
当然の反応だろう。手痛い罰を想像していたのに、そんな質問に答えるなどという罰で良いのだろうかと疑問に思っているのだ。
「なんだ、返事はないのか?せっかくのわしの優しさは無用だったか?ならば、手酷い罰を用意してやらなくもない。」
「い、いえ!大殿の優しさ痛み入ります!」
大殿はそれがしが気づいた事に気づいている。頭を低く下げている秀吉殿には分からぬよう、それがしに黙っておれと合図を送ってきた。