樫の木の恋(中)


戦が終わり、岡崎城に戻り織田家は一泊岡崎城や近辺にに泊まらせてもらってから美濃に戻る予定だった。
そしてその夜重臣達で祝勝会が開かれた。

「疲れた。」

ただ一言秀吉殿はそうこぼした。
甲冑を小姓に渡し、服装をいつもの着物に着替えていた。

「秀吉殿…どうされたのです?」

「ん?なにがじゃ?」

「いえ、機嫌があまりよろしくないようで。」

秀吉殿は長篠の戦いが終わってから、岡崎城に来るまであまり機嫌が良くなかった。戦は勝っているし、被害も少ない。機嫌が悪い理由が分からなかった。

「そうじゃったか?」

「ええ。」

「そうか。悪かったな…。まぁなんというか。」

何て言って言いか分からないというか、秀吉殿は言葉を選んでいるようだった。

「戦は…したくないもんだな。」

そう言って秀吉殿はゆっくりとそれがしの胸に頭を付けてきた。
そんな秀吉殿をゆっくりと抱き締める。いつ誰かが来るやもしれないこの部屋で、秀吉殿が甘えてきているのが分かった。

秀吉殿の香りが体を包む。
幸せを感じてしまいそうになるが、秀吉殿が傷ついているのが分かった。

此度の戦、一方的に叩く方法だった。

ほとんど武田家の者ではあるが、死者も一万以上だ。

「……色々と重い。」

秀吉殿が何を思ってそう言っているかは分からない。

だけど、きっと優しい秀吉殿のことだ。

「それがしもいますから。」

そう言うと秀吉殿は小さく笑って、どちらともなく口付けを交わした。


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