樫の木の恋(中)
「のぉ、半兵衛。」
「なんです?」
徳川殿は真剣な顔をして、周りをちらっと様子を見てからゆっくりとこちらを向き小さく口を開いた。
「やはり、秀吉と結婚して武士などやめさせてやってくれんか。」
「徳川殿…。」
徳川殿は真剣そのものだった。そしてその真剣な目は秀吉殿を案じているのがよく分かる。
「別に女子を否定するわけではない。だが、あいつは優しすぎる。此度の戦でも武田家がやられているのを凛々しい顔をしながらも、痛々しそうに見ておった。」
徳川殿は大殿程でないにしろ鋭い。
現に秀吉殿は傷ついていたし、それがしにあまり甘える人でないのに、甘えるほどだったのだ。
「あやつは半兵衛か、信長殿の言うことなら聞くじゃろうから。信長殿に頼む訳にはいかんし。半兵衛、言ってやってくれ。」
「秀吉殿は、それがしが言っても辞めませぬよ。」
「そんなことない。」
「それに秀吉殿が望むなら、叶えてあげたいのです。」
そう言い切ると徳川殿は顔をしかめて、嫌そうな顔をする。
「死ぬやもしれんのだぞ?」
「秀吉殿はそのくらい覚悟しております。」
「半兵衛は、秀吉が死んでしまったとしてもそう割りきれるのか?」