樫の木の恋(中)
「この乱世、好きな者と結婚出来る事の方が少ない。」
上の立場に行けば行くほど、政略結婚ばかりだ。勿論好き同士で結婚する方もいるが、極少数。
「女として偉くなった秀吉に政略結婚を勧められる程の奴は信長殿しかいない。しかし、信長殿は秀吉にそんなことをさせようなど少しも思っていない。」
確かに今や国主にまでなった秀吉殿に、そんなことを勧められるような人など大殿しかいない。
「好きな者同士で結婚出来る事がどれだけ幸せな事か。秀吉と半兵衛はそれが許されておる。なのに、結婚しようとは思わんのか。」
結婚してしまったら、そこの国主は自分ということになってしまう。
それでは今まで頑張ってきた秀吉殿に悪い。
だからこそ結婚の話は一度もしなかったし、されたこともなかった。
「秀吉殿は武士であることを望んでいます。」
「…まだ言うか。」
「秀吉殿を武士として、名を世に轟かせるのがそれがしの役目ですから。」
徳川殿はひとつため息をついた。
「決裂…と言ったところか。」
そう口にして、酒をぐいっと飲んで徳川殿は去っていった。