樫の木の恋(中)


「半兵衛、少し厠に行ってくる。」

恐らく厠もあるのかもしれないが、色んな人に話しかけられ過ぎて疲れたのだろう。少し休みたかったのだろうな。小さくそう言って出ていった。
少し胸騒ぎがして追い掛けようかとも思ったのだが、柴田殿に捕まり追いかけられなかった。




秀吉は厠から出て少し行った所で風に当たっていた。
色々な人に酒を勧められ酔いも回って来ていたし、人疲れしていた。

「秀吉…。」

ふと声をかけられ、秀吉は呼ばれた方に目をやると信長が立っていた。
秀吉が窓枠に手を掛けている姿を見て、信長はいきなり恋しくなっていた。

信長は秀吉の隣で窓枠を背にし体を預ける。

「大殿も酔い冷ましですか?」

「まぁそんなところだ。」

二人の間にしばらくの静寂が流れる。しかしそれは気不味いものなどではなく、安堵にも似た静寂だった。

秀吉は信長が自分に向ける想いに気づいてはいた。そもそも信長が秀吉に抱く想いが前と何ら変わってなどいなかった。
しかしそれは気づいてはいるものの、知らぬ振りをしていた。

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