樫の木の恋(中)
「いつしか諦めて、半兵衛といることが秀吉にとって幸せならば、そうさせてやろうと思った。」
信長が愛するが故の選択。
世論では、信長は冷徹で魔王のような人だと言われている。
確かに敵には冷たく非道な事をしたりするが、身内に対しては凄く優しい人だった。
「しかし……やはり耐えられん。懸命に己を誤魔化そうとしても、ふと寂しくて辛くなる。」
信長はあまり自分の心のうちを明かすような人ではない。
それだけ信長が思い詰めているというのを、秀吉は感じていた。
「お主が恩人であるわしに、こんなことをされても拒めんことを分かっていてしている。わしは…狡い。女々しいもんじゃ…。」
「……そんな、ことは…」
「いや、わしは狡くて、女々しい。だからこうしてお主の恩義を利用してしまう。」
そう言葉を落としてから、信長は秀吉に優しく口付けをした。
拒もうと思えば、拒めた。
しかし信長の想いが秀吉を絡めて離さず、体が動かなかった。
「すまんな…。」
そう言って、信長はもう一度軽く口付けをしてから、秀吉の頭を撫で去っていった。