樫の木の恋(中)


もっと早くに追い掛ければ良かった。
秀吉殿が大殿と口付けする現場を、見てしまったのだ。

心を落ち着けるため、二人からは見えない廊下の角で、壁に体を預ける。

大殿の隠していた想いが溢れてしまったのだ。そう思った。秀吉殿が大殿を拒めないことくらい前々から分かっている。

分かっていても辛くない訳がなかった。

しばらくそこにいると、大殿が現れた。
大殿は目を見開き、しかしすぐに目を伏せる。

「…すまん。」

そう言葉を小さく発してから、去っていった。痛々しいまでのその背中が辛くて見ていられないほど。



< 46 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop