樫の木の恋(中)
もっと早くに追い掛ければ良かった。
秀吉殿が大殿と口付けする現場を、見てしまったのだ。
心を落ち着けるため、二人からは見えない廊下の角で、壁に体を預ける。
大殿の隠していた想いが溢れてしまったのだ。そう思った。秀吉殿が大殿を拒めないことくらい前々から分かっている。
分かっていても辛くない訳がなかった。
しばらくそこにいると、大殿が現れた。
大殿は目を見開き、しかしすぐに目を伏せる。
「…すまん。」
そう言葉を小さく発してから、去っていった。痛々しいまでのその背中が辛くて見ていられないほど。