樫の木の恋(中)
「秀吉殿…好きです…。」
「…ああ。」
いつもの秀吉殿なら己もだと返してくれるだろう。
今の秀吉殿は悩んでいる。
大殿をあのように傷つけてしまっていることに、悩んで秀吉殿も傷ついているのだ。
「半兵衛…その」
「それがしは、別れませぬ。」
秀吉殿が別れようと言い出すような気がした。
「秀吉殿と別れるくらいなら、死んだ方がましです。」
「大袈裟な…。」
「大袈裟ではありませぬ。身も心も秀吉殿に尽くす所存です。別れるときはどちらかが死ぬときが良いです。」
ふっと秀吉殿が笑い、強張っていた体の力を抜きそれがしに預けてくる。
「半兵衛は…一途じゃのぉ。」
「…秀吉殿は違うのですか?」
「私は…半兵衛が好き。じゃが、大殿には恩義がある。今の私があるのも大殿のお陰じゃ。拒むことなど出来ん…。」
そう言い切られてしまった。
分かっていたことなのに、これほどまでに辛くなる。
このまま遠いどこかに秀吉殿を連れ去っていけたなら…そう思わずにはいられなかった。
どこまでいっても大殿の影に絡めとられて、離してなど貰えない。