樫の木の恋(中)


「それと……嫌なら嫌と言って欲しい…。」

思わずその言葉に傷ついた。だからなのか、言ってはいけないことを口にする。

「………それがしが嫌と言ったら、大殿を拒んでくれるのですか?」

「それ…は……。」

その返答に思わず苛立ってしまった。

「…無理でしょう?」

それがしが嫌と言って、大殿を拒んでくれるのなら、もう既に言っている。

だが、現状はそんな生易しいものではない。
恩が大きすぎて、重すぎて。

大殿は何故、あのようなことをしたのだろうと思いつつも、自分が同じ立場なら我慢など出来ないだろうなとも思う。

「だから、その事に関しては何も言いませぬ。」

「……。」

「ただ…」

「ただ…?」

ゆっくりと掴まれていた腕を取り戻し、秀吉殿を包むように抱き締める。

「ただ、それがしの元に必ず帰ってきてくだされ。頼みまする。」

「……分かった。約束…する。」

秀吉殿は再び大殿に抱き締められるのかもしれない。
きっとそれを拒む術など、無いのだ。

だけど、必ず帰ってきてくれると約束してくれた。
ただそれだけの口約束。

それでも幾分かは気分がましになった気がした。


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