樫の木の恋(中)
半兵衛が部屋を出ていった後も、二人はしばらくの間話しもせず目も合わせず沈黙を貫いていた。
しかしその沈黙は秀吉のついた小さなため息によって終わった。
「わしといるのは、ため息をつくくらい嫌か?」
そんなことを言われるとは思っても見なかった秀吉は、思わず顔をしかめる。
「…そんなわけありませぬ。」
「嫌なら嫌で構わん。そちらの方が諦めがつく。気も軽くなるというものだ。」
そう言われて、秀吉も気がついたのだ。
確かに嫌いになれた方が楽だろう。しかし、そんなこと出来るわけも嫌いになる理由も無い。
信長がゆっくりと秀吉に近づき、手を肩に添える。秀吉は拒むことなく、信長から顔をそらしていた。
「いっそのこと、嫌われるような事でもしようかの。」
そう言って秀吉をそっと畳の上に倒した。
さすがに驚いた秀吉は、急いで体を起こそうとする。しかし信長が上に跨いできたことにより、それは叶わなかった。
「…大殿?」
信長の妾だった頃は、こういうこともあった。しかし今は半兵衛がいる。大殿が嫌がることなどやらないと思いつつも、今この体制の時に半兵衛が入ってきたら勘違いされてしまう。
そんなことを考えていた。
しかしそれも信長の瞳を見るまでの話。
信長の瞳を見たら、寂しさと虚しさでいっぱいで心が苦しくなる。