樫の木の恋(中)
「…拒まなくて良いのか?」
信長が秀吉の髪をゆっくりと片手で払ってやりながら、反応を伺う。
秀吉は目を伏せていて、何を考えているか信長には分からなかった。
しかし拒む様子など一切見せない秀吉。
「本当にお主が嫌うことをするのやもしれんのだぞ?」
それでも目を伏せたまま、秀吉が黙っていると信長は悲しくなってくる。
これほどまで秀吉が自分に感謝してしまうのは、今川家がした事が秀吉の心を蝕んでいるから。
「それがしが大殿を嫌うことなどありませぬ。」
「それは…」
「拒むこともありません。」
「半兵衛に悪いとは…思わんのか?」
憂いているようにも見える秀吉は、物凄く綺麗で儚かった。
「大殿…前に交わした約束、覚えておられますか?」