樫の木の恋(中)
そのあと、評定は何事もなく進んでいった。
評定が進むにつれ秀吉殿は顔の赤みが消えていき、いつもの秀吉殿に戻りつつあった。
しかし評定が終わったあと、やはりというか予想はしていた。与えられた部屋にて四人で入ろうとすると、明智殿が秀吉殿に声をかけてきたのだ。
「秀吉、久しぶりだな。忠犬も。」
先程までそれがしに向けていた厳しい顔は、影を潜めていて、代わりに作られた笑顔が明智殿に張り付いていた。
「忠犬?」
秀吉がなんの事か分からなかったのだろう。小首を傾げる。
「半兵衛の事じゃよ。秀吉の忠犬ではないか。まぁ飼い主に助平な事をする犬のようじゃが。」
「明智殿…、半兵衛を馬鹿にしないで頂きたい。」
金ヶ崎の退き口の後、二人はそれ以前より仲良くなっていた。あの厳しい戦い、明智殿が来てくれなければ撤退の道を作ることは成せなかったのだ。
それに関して秀吉殿は明智殿に感謝していた。
まぁその後すぐに明智殿は城主に任命された。だから二人が口付けを交わすことはもう無くなっていたのだ。
そもそももう女子と明かしたのだから、条件は無効となっていた。