樫の木の恋(中)


それから何度か、こっそりと藤吉郎に文をしたため、今川殿には気づかれぬように送らせたりした。

昔、織田家に人質としていた竹千代と仲が良かった。
今は松平元康として元気にしているとの情報も手に入ったりと藤吉郎との文は充実したものだった。

そのうち今川家が上洛を目論み、武田、北条、今川家で同盟を結んだ事により、より一層藤吉郎との文が明るみに出ては不味いものになった。

自分は親父が死んだことにより、織田家の当主になった。

それでも場所と日を合わせ、遠出をする際は会ったりもした。

「織田殿、良いのですか?」

「何がだ?」

「織田殿は分かっているはずです。私が当主になった織田殿に近づいているのは、織田家に入って武士になりたいからですよ?」

そうやって言う藤吉郎に酒を注ぐ。藤吉郎はそれを黙って飲み干した。

「お主は面白いからな。織田家で小姓として見て優秀ならば、武士として召し上げても構わん。」

そう言うと藤吉郎は嬉しそうにしていた。
今川家では、武士として召し上げてやると一度も言われたことがないのだろう。
だからか、凄く嬉しそうにしていた。

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