樫の木の恋(中)
藤吉郎がすっと体を寄せてくる。そしてわしの手に自らの手を乗せ、少し潤んだ瞳で見上げてくる。
思わず胸が高鳴り、顔を赤くしてしまう。
しかし、そんなことを望んでいるわけではなかった。
「そういうのは…わしにはせんでいい。」
きっと今までそうして男に気に入られながら、のしあがって来たのだろう。自らを汚しながら、男の喜ぶことをして生きてきたのだろう。
いやきっと、そうすることでしか生きる術が無かったのだ。
「ふふっやはり織田殿は、不思議なお方…。」
嬉しそうに、しかし妖艶に笑う藤吉郎はやはりどことなく哀しみが滲み出ている。
「藤吉…。」
「はい…?」
藤吉郎の手を握り、真っ直ぐに目を見る。不思議そうにしているその目が、なんとも可愛らしい。
「織田家に来たら、そういうのはしなくていい。」
「…?」
「女というのを隠せ。そうすれば武士として召し上げやすくなる。それに、そういうのをしなくて済む。」
そう言うと藤吉郎は目を伏せ、口を開いた。