樫の木の恋(中)
「明智殿。その件に関しては以前お断りしたはず。」
「あの頃はまだお主が大殿の妾だったからな。今は半兵衛が相手ならば、余のものにするのも容易かろう。」
口角を上げ余裕を表情に出しながら綺麗に笑う明智殿。
そんな格好良く見える明智殿の顔を、秀吉殿は嫌なものでも見るかのように見据える。
「それがしは半兵衛のものです。明智殿がなんと言おうとそれは変わりませぬ。」
そう明智殿に断言してくれたことが、どれほど嬉しかったことか。
それなのに、明智殿はそんな毅然とした態度の秀吉殿を見て、不気味な笑みを浮かべた。
「っ…!」
思わず声が出そうになる程のその笑みは、身体中を硬直させ背中に悪寒が走るほど。
それは秀吉殿や清正、三成も同じのようだった。
秀吉殿など刀の柄に手をかけるほどだった。
「ふふっどうした?刀に手までかけおって。」
「いえ…。すみませぬ。」
刀の柄からゆっくりと手を離しながらも明智殿を警戒する秀吉殿。
そんな秀吉殿を眺めながら、ふわりと優しく明智殿は笑い口を開く。
「秀吉、余にもマムシの教えが流れておる。」
「は?」
「いずれ分かるじゃろうよ。」
そう言って明智殿は去っていった。