樫の木の恋(中)
「離してくだされ。」
「…嫌じゃ。」
「もう…死なせてくだされ。」
「っ…いかん!」
藤吉郎の涙がわしの着物に染み込んでくるのが分かる。
それがどれほどまでに辛い事か。
「そんなに死にたいなら、憎き男を、わしを殺してから自害しろ。」
「…っ!織田殿は…憎き男とは…違いまする。」
懸命にわしの腕から逃れようとする藤吉郎を必死に抱き締める。今離したら、藤吉郎は死んでしまうだろう。そんな気がした。
「…何が違う。お主を…苦しめていることには変わらん。」
そうだ。
同じなのだ。
辛い思い出を忘れさせてやれず、死にたいと願う藤吉郎を自分のために側に置いておきたい。
己の欲のために藤吉郎を弄ぶ男と何が違うと言うのだ。