樫の木の恋(中)


「わしは藤吉に生きていて欲しい。生きてすぐ側で天下を取るところを見ていて欲しい。それを今後の生きる目標とするには弱いじゃろうか。」

藤吉郎は泣き疲れたようにわしの胸に顔を埋めてきた。
それを受け止め、壊れ物を扱うかのように抱き締める。

「…織田殿は…なかなかに酷なお方ですね。」

「何故?」

「死にたい程辛い私に、己のために生きて辛い思いをしろという。」

胸に顔を埋めたままの藤吉郎がどんな顔でそう言っているのかが分からなくて不安になる。

「自分勝手なお方…。」

「ああ、わしは自分勝手じゃよ。わしのためにお主に生きていて欲しい。」

そうはっきりと言うと藤吉郎は困ったように笑った。

「……私が死ぬと織田殿は死んでしまうし、でも織田殿には死んでほしくないし。困ったもんです。」

藤吉郎はゆっくりとわしの腰へと手を回し抱き締め返してくる。
そんな藤吉郎をもっと近くに感じたくて、強く強く抱き締めた。


「幸せ…だったのです。」

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