樫の木の恋(中)
それからすぐに約束のひと月が経った。
寺社に連れていったり、海にもまた連れていったりした。読み書きもすぐに覚え、傷が良くなると武芸を教えたりと楽しい日々だった。
その日は朝から何の予定も入れぬように計っており、藤吉郎を抱き締めながらいつもより遅めに起床した。
藤吉郎の体は来たときからだいぶ良くなっていた。それでも背中の傷は一生消えないだろうと医者は言っていたが。
あざは消え、拷問にあう前の綺麗な顔に戻っていた。
爪はまだ少ししか生えていないが、時間が経てば前と変わりないようになるだろうとのこと。
まぁいくら体の傷は消えていこうとも、藤吉郎の心の傷は一生消えないのだ。
女子にここまで酷い拷問をするなど。
どうしても許せなかった。
「ん…織田殿…?」
ゆっくり腕の中でもぞもぞと起きる藤吉郎の頭を撫でる。眠そうな顔をしながら抱き締め返してくれる。
「藤吉…。そんな可愛く抱き締められたら、口付けをしたくなる。」
「なっ…!」
藤吉郎はそういうのに弱くなった。
いや、弱くなったというのは違うだろう。きっと今までは、己を偽ってきたのだろう。気に入られるために色気のある妖艶な女子の皮を懸命に被ってきていたのだ。
しかし今は皮を被らず、素のままでいてくれてる。
そうやって顔を赤らめる反応が初々しくて、朝から心が掴まれたかのように苦しくなる。
でもその苦しさは嫌なものではなく、幸せでたくさんになる。