樫の木の恋(中)
今日、夕方から久々に家臣が集まったことによる宴が開かれる予定だった。
それを待つ間、割り振られた部屋に四人でくつろいでいた。
いや、くつろいでいるというのは嘘だな。
秀吉殿が怖い顔をして苛々としていた。
本当は清正も三成も、明智殿の口付けの話を聞きたいのだろう。しかし秀吉殿が苛々としていたために、清正は気まずそうに、三成は顔をしかめながら黙っていた。
「ほんっと、あの男はなんなんじゃ!正室も側室もおって、子供もおるというのにあの女たらしは!」
それを言ってしまったら大殿だってそうじゃないかと内心思ってしまう。しかし今の秀吉殿にそんなこと言えなかった。
「何が、余のものにならんか?だっ!誰がなるか阿呆め!」
普段あまり怒ったりなどしない秀吉殿。たとえ怒ったとしても静かに怒る事の方が多い秀吉殿が、このように口に出して怒ることは珍しい事だった。
「秀吉殿がそのように怒られるなんて珍しいですね。」
「怒りたくもなる。」
きっと秀吉殿はあの不気味な笑みに怒りを覚えているのだ。本当は恐れを抱いているのではないだろうか。
そう思っている事を自分自身に隠すために、いつもと違い表に出して怒っているのではないだろうか。