樫の木の恋(中)
分かっていた。
秀吉が死にたくなる程の件に、密接に関わってしまった自分といるとき、秀吉は拷問のことを思い出してしまう。
秀吉は今までそれを隠していたのだ。
それに気づいていたのに、どうしたらいいか分からず今に至ってしまった。
「大殿は助けてくれた恩人なのに…考えてしまうのです…。」
秀吉は強く着物を掴み、荒くなる息を抑えようとしている。
「秀吉が悪いわけではない…。」
一言そう言うのが精一杯だった。
こんなにも秀吉を欲しているのに、手に入れても手に入れなくても秀吉は苦しむ。
自分が想いを抑えきれずに岡崎城で口付けをしてしまったためにこうなってしまったことを後悔していた。
「男として、好きになれず…すみませぬ…。」
「謝るな。そんなもの仕方のないことじゃ。」
「大殿が望むのなら…」
秀吉がゆっくりと顔をあげ、真っ直ぐ見つめてくる。
「私は…半兵衛と別れ、大殿の元へと帰ります…。この身は大殿のために在るのですから。」
秀吉が苦しみながら、口にするのが分かった。
目には涙が溜まっており、いつ落ちても不思議ではないのを秀吉は懸命に耐えている。
むちゃくちゃになる程に、秀吉を抱き締めたい。
秀吉のその発言に乗ってしまいたい。
ずっと手元に置いておけたなら、どれほど幸せなのだろうか。
でもそれは幸せなのは己だけで、秀吉には幸せな事ではない。
そもそもそうやって秀吉を手元に置いたとしても、そんな秀吉を見るのは辛いだけだ。