樫の木の恋(中)
「……秀吉…。」
ゆっくりと抱き締め返す。
この感触が好きで、幸せなはずなのに切なくて仕方がない。
「大殿のために生きると決めた…はずなのに…。大殿を悲しませてしまうなんて…。」
「わしは…お主が幸せになる方が嬉しい。お主が半兵衛といるときが一番幸せなら、そうして欲しい。」
ついに秀吉の目から涙が落ちた。
それはわしの着物に吸い込まれていく。
来た当初拭えなかった涙は、その後拭えるようになった。
しかし今、それが再び躊躇われる。
それは今自分の役目ではなくて、半兵衛の役目なのだ。
そもそも今こうして抱き締めている事自体いけないのだ。それなのに腕を離すのがこんなにも難しい。
「お主の辛い顔を見たくない…。わしといるときの秀吉は辛そうで、わしまで辛い。」
「大…殿……。」
「今までわしのために生きていてくれたが、そろそろ己の為に生きてもよいじゃろう。これからも武士としてわしを支えてくれれば、それで構わんのだから。」
我慢出来なくて、秀吉の涙をゆっくりと優しく拭う。