この恋に、 ひとさじの 勇気を。
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あれだけ毎日顔を合わせていたのに、彼が転勤してからは連絡がパタリと途絶えた。ノー登校デーはどこに行くでもなく、家でゴロゴロ。
彼が元気にしているか、新しい学校でどうしているのか気になったけれど、どんな顔で会えばいいのか、どんな会話をすればいいのか分からず、連絡できなかった。
忘れることなどできるはずがなかった。
抱きしめる大きな手。責めるように休みなく動く指。私の名を何度も紡いだ声。すぐ耳元に聞こえる荒れた息。貫く熱。
忘れられるはずがなかった。
離れ離れになって、気がつく。
私は彼が好きだったのだ、と。
プールに行ったときに感じた胸の高鳴りは気のせいではなかったようだ。
「最上先生がいないと、寂しそうですね」
「そんなことないですよ」
生徒達の噂を間に受け、私達が付き合っていると思っている同僚の先生方から、そう何度もからかわれた。ちゃんとデートしているのか?と心配までしてくれる。
どうしよう。疲れが取れない。
月一のお出かけもなくなり、担任を持たなくなったから、時間に余裕はできたはずだが、一向に心が休まらなかった。
寂しい。寂しいよ。良平さん。
あの夜が無ければ、素直に連絡を取れたかもしれない。向こうからも連絡が来たかもしれない。だけど、何回時間を巻き戻しても、私は恐らく、最後に彼を引き止めるだろうし、彼に抱かれる道を選ぶだろう。
不完全燃焼な気持ちを持て余していた。新しい恋に踏み切る出会いも気力もなく、かと言って、彼に連絡する勇気もないまま、一年が過ぎた。
そんな私に届いた同窓会の知らせ。かつての教え子が集まるらしい。先生も来てほしいと言われた。良平さんも来るらしいと小耳に挟んだときは、正直迷ったけれど、生徒に会いたい気持ちが勝った。