この恋に、 ひとさじの 勇気を。
「じゃあ、来年のクラス会で会いましょう!」
夜の9時半にクラス会はお開きになった。まだまだ騒ぎ足りない生徒達は二次会のカラオケに向かうらしい。そのまま帰る人もいるし、仲の良かったメンバーで、もう少し話をするという人もいた。
「来年こそ、先生の結婚話期待してまーす」
「みんな気をつけて帰りなさいよ〜」
「出た。山添先生、ガン無視作戦!」
生徒達は楽しそうに笑いながら、それぞれ去って行った。揶揄われることは沢山あったが、みんなの元気な顔を見れて良かった。
私も帰ろうと足を踏み出そうとしたところ、背後から腕を掴まれた。
「そっちは駅ちゃう。相変わらずの方向音痴やな」
私を引き止めるのは良平さんだ。行きは明るかったから辿り着けたけれど、夜も更けた今、駅の方角はイマイチ分からなかった。どうやら、こっちだ!という勘は外れたらしい。
良平さんが白い歯を見せて笑っている。私が好きな笑顔に鼓動が跳ねる。
「せやけど、今日は帰さへん。ちゃんと話し合いたいから、もう少し付き合ってくれ」
「……最上先生」
「今は良平でええから」
生徒達が帰った今、私達はオフの時間だ。言いたいこと、聞きたいことは山程ある。
「分かりました。この近くだとまた生徒と鉢合わせするので、少し離れましょう」
「じゃあ、俺の家の近くでええか?最近、美味い喫茶店ができたんや」