この恋に、 ひとさじの 勇気を。
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「ちょっと痩せたんとちゃうか?」
連れて来られた喫茶店でコーヒーが出てくるのを待っていると、彼の方から声をかけてくれた。
「ダイエット成功かな」
「ダイエットせなあかんほど、太ってないやろ」
別にダイエットをした訳じゃない。彼と離れてからというもの何を食べても美味しくなくなって、食べる量が減っただけだ。
「……ダイエットせな!って思う相手ができたんか?」
「え?」
良平さんは苦笑いのような表情で、口角を上げて苦しそうに尋ねてくる。
「俺が去ってから若手の先生がようさん入ってきたって聞いた。好きな男でもおるんか?」
「なんで……」
私が好きなのは今も昔も良平さんだけだ。確かに私と年が近い先生方が増えた。だけど、どれだけ顔が整っていると噂される人にも心はなびかなかった。
「そんな人いませんよ」
1年間で新しい人が見つかるくらいなら、こんなに痩せたりしなかった。行き先を失った想いが苦しくてたまらなかったのに。
「ブランドコーヒーです」
店員さんが注文していたコーヒーを持ってきてくれた。
「お砂糖とミルクは机に置いてあるものをお使いください」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
良平さんと私は店員さんにお礼を言って頭を下げた。同じ行動を取る私達を見て店員さんは柔らかく微笑んだ。
店員さんが去ったあと、良平さんは机上のお砂糖を手に取り、スプーンひとさじのお砂糖を入れた。
実は彼はブラックコーヒーよりもお砂糖をひとさじ入れるほうが好きなのだ。
「良平さん。私にもお砂糖」
「お前、ブラックじゃないんや」
「良平さんのせいでブラックが飲めなくなりました」
彼は驚いたような表情をしたあと、私のコーヒーにもお砂糖をひとさじ入れてくれた。