この恋に、 ひとさじの 勇気を。
言った。言ってしまった。
居た堪れなくて、砂糖入りコーヒーを一気に飲む。熱くて、舌が痺れて、火傷したような気がする。
「……」
良平さんは沈黙したまま。固まっているのは、驚いているからだろうか。
そうだよね。きっと彼は酔った勢いだった。お兄ちゃん面をしていた彼にとって、私は妹分だから。妹分から恋されてるなんて思わないか……普通。
「ごめんなさい。変なこと言って。私、帰り……」
「待ってや」
立ち上がろうとした私の腕を良平さんが掴んで、強引に座らされた。
「真空って、俺のこと好きなん?」
食い入るほどに見つめられた。穴が開きそうだ。
「そうですよ。さっき言ったじゃないですか」
「でもあの日のこと、忘れようって言うたやん」
「それは……!」
思い出すのは、あの日の良平さんの後悔した表情。
「それは、良平さんが後悔しているように見えたから!」
『こんなこと、するんやなかったな』
そう言っていた人を前に、他に何が伝えられた?
お互い忘れる。それが私の中の最善策だった。結局、私も良平さんも忘れられなくて、1年経った今、こうして話をしているのだけれど。
「良平さん、後悔していたじゃないですか」
「後悔するに決まってるやろ!真空に……真空に、告白する前にあんなことになったら!」
「……は?」
今度は私が固まる番だ。
「ちょっと待ってください。告白って?え、何?どういうこと?」
「だ、か、ら!真空が好きって告白に決まってるやん!」
思った以上に良平さんの声は大きくて、周りから視線が突き刺さる。それに気がついたのか良平さんは気まずそうに咳払いしたあと、コーヒーを一口飲んだ。
「転勤前の最後の日。あの日を逃したら、もう二度と言われへん気がしたから、呑みに誘ったんや。せやけど、タイミング逃して、結局勇気出せんかった」
良平さんが語られることの衝撃が大きすぎる。彼は至って真剣な顔だから、嘘ではないんだろうけど、頭がついていかない。
だって、彼の後悔って『好きでもない女と酔った勢いで一夜を共にした後悔』だと思っていた。
「真空の引き止められて、涙を見せられたら、もう無理やった。理性吹っ飛んで、あんなことになった。ああなったあとで、告白しても、責任取るためやとしか受け取ってもらわれへんやん。だから、後悔。実際、真空はあの朝、俺を拒絶して、取りつく島もなかったしな」
「……拒絶なんて、私……」
「してたやろ?飲み会のときは明日は休みとか言うてたのに、いざ朝になったら、休日出勤するって嘘ついたやん」
……嘘だって気づいていたんですね。
「ごめんなさい……後悔している良平さんを見たくなかったんです」
「分かってる。というか、今分かった」