この恋に、 ひとさじの 勇気を。

「お互い、勘違いして、すれ違ってたんやな」
「そのようですね」

お互い、好きなのに。勘違いして、すれ違って、遠回りした。大切なことはちゃんと勇気を出して伝えなくちゃいけない。

「じゃあ、改めて。俺は真空が好きや。俺と結婚してほしい」
「え。そこは普通、"結婚を前提に付き合ってください"じゃないんですか?」

いきなりプロポーズですか。いきなりゴールインしちゃいますか。

「今更付き合って何すんねん」
「え。えっと……」

確かに今まで時間は積み重ねてきた。それこそ今までの彼氏とは比べものにならないほど、膨大な時間。

いつも色んな所出かけたし。キスだって、それ以上のことだって、した。

「確かに、もうやることって……」
「ないやろ?だから結婚。今ここで素直に受け止めとかな、お前は間違いなく行き遅れるぞ」

そうだ。来年で私、30だ。今年、ラスト二十代だ。

「お前、来年30やろ」
「自覚しているけど、良平さんに言われたら、何か腹立つ……」
「失礼な男に惚れたのはお前や。諦めろ」
「……ますます腹立つ」
「今から婚活しても無駄やで。俺が全力で邪魔しに行くからな」
「私、お見合いする予定なんですって言ったら、どうします?」
「そんなん俺が連れ去ったるわ」

良平さんが豪快に笑う。いつもの大きく口を開けて白い歯を見せて笑い方だ。

「真空。返事は?」
「こんな失礼な男、受け取り手がいないんで、しょうがないから貰ってあげます」
「なんて上から目線な返事や」
「良平さんも上から目線なプロポーズでしたよ」

あんなプロポーズ、良平さんが相手じゃなかったら、間違いなく断っていた。

「お前、時々生意気になるよな」
「その生意気女に惚れたのは、誰ですか?」
「俺やな」

良平さんが豪快に笑った。遠回りしたけれど、この笑顔が見れたなら苦しかった1年間は無駄じゃなかった。

「良平さん、好きです」

素直に伝えると良平さんが照れたように頬を赤らめたあと、砂糖入りのコーヒーを飲んだ。

「俺も好きや」

もう二度とすれ違ったりしたくない。だから、大切な想いはきちんと伝えよう。

ほんの少しの勇気で、きっと、私達は何度でも繋がり合えるから。

*fin*

***

読んでくださった皆様。
ありがとうございます。

本編では書けなかった番外編を少し書きます。
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