この恋に、 ひとさじの 勇気を。
そんなこんなで訪れた日曜日。
朝早くに起きて、台所に立つというのはいつぶりだろう?とエプロンを着ながら思った。月一のノー登校デーが出来る前は、毎日仕事だったため、スーパーやコンビニのお惣菜にお世話になりっぱなしだったのだ。
卵焼きは醤油。ウインナーとりんごはネタ用にタコさんとウサギにしたけれど、お弁当箱に収まりにくくて悪戦苦闘した。毎朝、お弁当を作る主婦の方々を尊敬することになる。
『着いたで』
この月一のお出掛けのために、交換したLINEが届いたのは待ち合わせ時間の10分前。良平さんはいつも私の家の前まで車で迎えに来てくれる。
『今出ます』
そう返信して、持ち物を確認。お弁当を入れた保冷可能なトートバッグを肩に背負った。
「おう!ほんまに作ってくれたんやな。お弁当」
お弁当の分、いつもより荷物が多い私を見て、良平さんは嬉しそうに笑った。
「久しぶりのお料理なんで味は分かりませんけど」
「いやいや、手作り弁当とか長いこと食ってないから、嬉しいわ」
そう言いながら荷物を受け取り、助手席のドアを開けてくれる。そういうところ地味に紳士だ。本人に言ったら調子乗るから絶対に言わないけれど。
「ありがとうございます」
「ビニールシート持ってきたから、ゴロゴロのんびりしよーぜ」
「いいですね〜!」
テンション高めで車が出発する。
薄手の白のTシャツにジーンズ。ゴロゴロするのを考えたラフな格好だ。そういう私もTシャツにカーディガン、ジーンズという似たような服装をしている。
この気取らなさが好きだ。ありのままで居て、話したいことが話せるこの時間が私の中で大切な時間になっていた。
その一ヶ月であったこと。今の不安。くだらないノリとツッコミ。真面目な話も他人が聞けばきっと馬鹿馬鹿しい話も、お互い話し始めれば止まらない。それは公園について、散歩を始めても変わらなかった。
「腹減った〜!めし〜!」
良平さんのその叫び声を聞いて、私達は梅の木の下にビニールシートを引き、昼食をとることにした。私が持ってきたお弁当を開けると良平さんは大爆笑。
「すげー。ちゃんとタコとウサギいるやん」
「朝から頑張ったんです!」
「おにぎりも三角形!」
「……実は俵型の方が苦手なんです」
私が箸を出す前に待ちきれなくなったのか、良平さんは卵焼きを指でつまんで食べてしまった。
「あ」
「うまー」
「本当ですか?」
「うん!マジで美味い!俺好みの味」
そりゃ卵焼きの好みはしっかり聞かされていたので、頑張りました。
「真空っていい嫁さんなるよ」
「だけど相手がいないです」
「そうやった!だから、俺が休みの相手してやってるんやった」
聞き捨てならない言葉が聞こえる。
「お願いした覚えもないですけどね〜」
「実は結構、楽しみにしてるくせによく言うわ」
「良平さんこそ、いつも楽しそうに誘ってくるじゃないですか〜」
口では憎まれ口を叩き合いながらも、実際、本当に楽しいのだ。数少ない私の彼氏とのデートと比べるのもおこがましいほど、自分にとって、この月一のお出掛けは大切な時間なのだった。