この恋に、 ひとさじの 勇気を。
お昼ご飯を食べたら、良平さんはゴロンとビニールシートの上で横になった。
「食べてすぐ寝たら、牛になりますよ〜」
「モーモー」
「…………」
私が注意すると良平さんは牛の鳴き真似をする。呆れた私はあえてスルーして、お弁当箱を片付ける。
「無視はひどないか?真空ちゃーん」
「良平さんがちゃん付けで呼ぶとか気持ち悪いです」
「気持ち悪いって、良平ちゃん傷つくわー」
でた。必殺、眉毛下げ!
この頃は、その眉毛下げにいちいち罪悪感を感じなくなったぞ。
「良平さん、頭可笑しくなりましたか?」
「俺は元からこんなんや」
「そうでした。元から頭が可笑しかったですね」
「お前なぁ」
またいつものように歯を見せて笑う。すると突然、腕を引かれて彼の横に倒れこんでしまった。他人が見たら、腕枕されてるように見えるだろう。
慌てる私。
「ちょっ……!」
「見ろよ。真空。空が綺麗や」
思わずその腕から逃れようとしたのに、能天気にそう言った彼は肩が抱き寄せる。だけど、その瞳が驚くほど澄んでいて、私もつられるように空を見上げた。
「……ほんとだ」
春の空は、彼の瞳に負けぬほど澄んでいた。
雲は流される訳ではなく、どこか遥かを目指してゆっくりとゆっくりと進んでいくようだった。
毎日は目まぐるしく過ぎて、空を仰ぐ時間すら持っていなかったことに気づく。彼はこの空の広さを忘れさせないために、ここに連れてきてくれたのだろうか?
「たまにはこんな静かな時間もいいですね」
「やろ?たまには、のんびりして深呼吸しやんと」
そう言って深呼吸した彼を見習って私も深呼吸した。どんなに大きく吸い込んでも消えない空の青。包み込むように暖かい太陽。そして、いつも私を笑わせ、楽しませてくれる彼。
のんびりとした時間の中、私は瞳を閉じた。安心感に包まれた場所は私の眠気を誘う。
「何や、真空。眠いんか?」
「……ん」
「早起きしてお弁当作ってくれたもんな」
「……う、ん」
……唇があったかい。
何で?
夢うつつのまま、瞳を少し開けると、視界いっぱいの良平さんだった。
「……っ!?」
「大丈夫。虫が付いていただけや」
良平さんは私の頬にそっと触れる。
「少し、寝とけ。んで、明日からまた頑張れ」
優しい声を最後に私の記憶はない。