フェアリーテイルによく似た
禁断でなくても、その果実は甘い
幼い頃、酒好きの父親の部屋に忍び込み、さきいかだのキューブ状のマグロだのを盗み食いしていた私は、「将来大酒飲みになるねえ」と周囲を笑わせたものだけど、成人式を終えて何年経っても、いたってお酒は弱い。
わかっているから自重しているのに、あのビールを注いで注がれてっていう社会人の儀式だけで、足元がふらつくのだからどうにもならない。
かと言って、吐いて迷惑を掛けたり、絡んで泣いたり、記憶をなくして誰かにお持ち帰りされたりするわけでなく、楽しく飲んで……あとはひたすらに眠くなる。
好きなんだけどな、飲み会。
仕事を離れてみんなと話すのだって楽しいし、眠くなる前なら酔うのも楽しいし。
好きなんだけどな。
『好きこそものの上手なれ』とはいうけれど、ただ好きなだけじゃ、どうにもならないことはたくさんある。
「おーい、平雪ちゃーん」
ペシペシとほっぺたを叩かれて、寝ていたことに気づく。
背中に畳や薄い座布団の感触がして、「あ、居酒屋のお座敷だったっけ」と思い出した。
だけど目は開かない。
開けようとはしたけど、私の必死の努力なんてこの眠気の前では風の前の塵に同じ。
やめておけばいいものを、メニューに『店長オススメ! 数量限定!』なんて書いてあったから、「今年一年お疲れ様、私!」と、うっかり飲んじゃった青森県産アップルアペタイザー。
黄金色の液体にしゅわしゅわの炭酸がきれいで、“リンゴ味”じゃなくて“生リンゴ”の味がして、飲んでるだけでお姫さまにでもなれそうな可愛いお酒。
可愛いお酒はアルコール度数だけ可愛くなくて、可愛くなく泥酔した。
店長……責任取って今日はここに泊めて。
という言葉も、頭の中で回るだけ。
口を開くのも面倒臭い。
正直な気持ちとしては、息をするもの面倒臭い。
「平雪ちゃーん。起きろー」
国松さん、こんなところで何してるの?
さっさと二次会行けばいいのに。
という言葉も、当然頭の中だけだった。
「ねえ、平雪ちゃん」
グッと近づいた声が、吐息混じりに変わる。
「起きないとキスするよ」
クスリという笑いに危険な色気がしたたっていることは、酔った頭でもよくわかった。
やっぱり目は開かないまま、背筋だけがゾクゾクッとした。
あ、トキメキじゃなくて悪寒の方。
非は私にあるってわかってるから「セクハラー!」なんて騒がないけど、あーめんどくさい、と頭の中でため息が出た。
国松さんはモテるから、私のことなんて気にしないと思って、「国松さん、かっこいいー」「付き合いたーい」と言いふらしていたけど、まさか目に留まるなんて誤算。