フェアリーテイルによく似た
紙にでも書いてもう一度届けるしかない、とガックリ肩を落とした私の手から、設計書がスルリと引き抜かれた。
「国松さん、すみません」
やわらかく響くクリアな声は中根君のもの。
国松さんの磨き抜かれた革靴も、その声ですぐに動きを止めた。
「手違いで設計書の情報が古かったみたいで、作り直していただけないでしょうか。ここのプール、測量し直したはずなんですよね」
中根君を見下ろす国松さんは笑顔だけど、視線はとても険しい。
それでも中根君は、やわらかな態度を変えず頭を下げた。
「作り直し?」
「すみませんがよろしくお願いします」
そもそもミスしたのは国松さんで、確認不足も作業が遅かったのも私の責任。
中根君は全然関係ないのに、ひたすら丁重に頭を下げている。
「謝るのは簡単だけどね。こっちは忙しいんだから困るな」
何が女子社員支持率ナンバーワンなのか。
誰が調べたか知らないけれど、鳴海調べでは元々低かった支持率が、たった今深海の底まで落ちましたっ!
「もっと早く言ってくれ。明日中には仕上げておく」
「それ、急ぎなのでできたら今日中にお願いします」
「無理言うな。早くて明日の午前中」
「わかりました」
今私が持っているこのボールペンが短剣だったなら、迷わず国松さんの心の臓をひと突きにして、遺体は支持率と同じ位置まで沈めてやったのに!!
書類をもぎとるように奪った国松さんは、ドスドスと足音をさせて去っていく。
私は悔しさで口の中に残っていたレモンのど飴をガリガリ噛み砕いたのに、中根君は小さな溜息ひとつでそれを見送った。