フェアリーテイルによく似た

寝ても覚めても




目覚めて最初の挨拶は、父にでも母にでもなく。

「おじちゃーん! おはよう!」

ベッド脇の窓から身を乗り出す朝六時。
すでに明るい太陽に目を細め、私は笑顔で呼び掛ける。

「おはよう、朝陽(あさひ)。髪、その辺、絡まってるぞ」

手に持った新聞で示されたところは、触ってみるともじゃもじゃと可愛げのない手触りがする。

「直してやるから着替えて降りてこい」

言われるままにTシャツとショートパンツに着替え、父と母への挨拶もそこそこに飛び出した先は、家の向かいにある小さな小さな美容院『Aurora』。
おじちゃんのお母さんが始めた店で、今はおじちゃんがひとりで切り盛りしている。

カランとドアベルの音をさせると、ブラシやドライヤーを用意していたおじちゃんが「いらっしゃーい」と迎えてくれた。

クルリとやさしく回転する美容院のイスってお姫様にでもなれた気分。
なんて、笑顔で鏡を見たら、お姫様には似つかわしくない髪の私を、おじちゃんが面白そうに眺めていた。

「これ、すごいな。どうやって寝たらこんな型がつくの?」

そんなことを言いつつも、手早く手際よく、複雑に絡まった髪を解きほぐす。
おじちゃんの指が髪を通ると、髪の毛の方から素直になるみたい。

「どうやって寝てるか見たい?」

「機会があったら一晩中観察させてもらうよ」

「機会ならいつでも」と言う私の言葉はドライヤーに掻き消され、前髪をセットされたせいでおじちゃんの顔も見えなくなった。

「おお~、すごい! さすがプロだね、おじちゃん!」

つやつやサラサラになった髪の感触を楽しみながら振り返ると、天然パーマの髪を揺らしながらおじちゃんは苦笑い。

「俺、まだギリギリ二十代なんだけどな」

“おじちゃん”と言っても、本当は私と七歳しか違わない。
だから私が引っ越してきた時はまだ高校生だったんだけど、生まれ持った体格の良さと強力な天然パーマのおかげでとても十代には見えなかったのだ。

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