フェアリーテイルによく似た

境界線を噛みちぎる




計算ではないと思うから、ただの鈍感?



「大学生の兄が夏休みで帰って来るなり、『男は外見じゃない』って言うんです。『なぜなら女は結局金と、それを生み出す才能に惹かれるからだ!』って」

聞かなかったけど失恋したことは間違いない。
最初は帰らないって言っていた予定を変更しての急な帰省だったし。

勢い余って乱暴に置いたティーカップが欠けたほどの熱弁だった。
母のお気に入りの品だったために後々怒られて、踏んだり蹴ったりだった兄。

「それから『女は外見だ』そうです。『男は結局美人と巨乳に弱いからだ!』って」

公の場だったら袋叩きに遭ってるよ。
そんなことをグダグダ妹に語ってるから振られるんだよ、とは言わないでおいてあげた。


だけど兄の言っていることは一理も二理もある。
美人女子アナと特別イケメンでもないスポーツ選手の結婚を思い浮かべながら、私もうんうんと頷いたから。

そもそも外見は努力の方向性がわかるけど、中身なんてどう努力したらいいのかわからない。
逆に好きになってしまえば、どんな外見だってどんな性格だって良く見えてしまうものだし。

「ねえ、先輩はどう思います?」

返事がないのはさっきからずっと同じなので、私はぼんやりと窓の外を眺めながら独り言を続ける。

男は外見じゃないとして、目の前でスヤスヤ眠るこの大きな熊か何かみたいな先輩がお金なんて持っているわけないし。
成績だって中の上くらいで、部活なんて地学部で、性格は適度に真面目で少し適当。
あと鈍感。
私はなんであなたが好きなんだろう?


「先輩は私の外見好きですか? 胸は……巨乳じゃないけど、まあ普通ですよ」

お化粧はできない分、お肌のお手入れをして、爪を磨いて、髪のトリートメントを頑張って、制服にも毎日アイロンをかけて、できる努力はしている。
少しでも先輩の気を引きたくて。

そんな先輩は、昨日地学部顧問の大友先生と一緒になんとか彗星を一晩中追いかけていたとかで、誰もいない図書室の机に突っ伏して爆睡中。
だから私の独り言に返ってくるのは大きな置時計のカチコチという音くらいのものだった。


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