フェアリーテイルによく似た


「先輩、今ならまだ間に合いますよ。『花火大会なんて行くな』って言ってよ」


悔しい。
なんだかとても悔しい。
私に一切の選択権がないのがとても悔しい。

自分の意志で選べるなら、こんな人を好きになんてならなかったのに。

この人を選ばざるを得なかった。
先輩なんかより数十倍さわやかで、数百倍格好いい笑顔にも、心が動かなかったんだから。

よりによって、私を選んでくれないこんな人を。


気づかなければよかったのかな?
大きくて威圧感がある外見に反して、小さな目の奥がすごく優しいって。
地を這うような低い声はいつも不機嫌そうに聞こえるけど、いつだって穏やかな人だって。

いや逆だ。
それを知ったから好きになったんじゃない。
先輩のことばっかり見ていたから気づいたんだ。

なんで先輩ばかりに目が行ってしまうのかわからない。
わからないから変えられない。
条件を並べれば須藤先輩に敵うところなんて、星座の知識くらいしかないはずのこんな人が、どうしても好きなのだ。

悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい!

それなのに「好きです。付き合ってください」って逃げ場がないくらい追い詰めて、最後のラインを噛みちぎる勇気が出ない。
そんな意気地のない自分が一番悔しい!



唇を噛みしめて見上げる空は、絵に描いたような真夏の青空。
天気予報はずっと晴れで、明後日の花火大会は無事に開催されるだろう。
きっとなんとか流星群だってきれいに見える。

雨が降ればいいのに。
花火大会も観測会も中止になれば、先輩は一緒にいてくれる?

てるてる坊主、逆さまに吊るせばいいんだっけ?
村人みんなで天に向かって雨乞いのダンスでもする?(漠然としたイメージ)
それとも人身御供?(犯罪)


微動だにせず眠り続ける先輩の首にも、汗がじんわりと浮き上がっている。
投げ出してあるタオルで拭いてあげても、ピクリとも動かない。

先輩は私のことなんて全然惜しくないの?
大友先生やなんとか彗星の方が大事なの?

やっぱり悔しい!
< 52 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop