フェアリーテイルによく似た

先輩の背後に回り込み狙いを定める。
やったことはないけど、やり方は知ってる。

深く深く息を吐いて一気に先輩の首筋に吸い付いた。

「うわっ!」

さすがに先輩も驚いて起き上がったけれど、こんなことは想定内。
思う存分吸って吸って吸って吸って吸って、息が続かなくなるまで吸い続けた。
もはや恋や愛なんてキラキラしたものじゃない。
憎しみ、呪い、恨みつらみ、そういう負の感情をたっぷり込めて。

「ふわーーーーーーっ!もう限界」

クラクラするまで吸ってから離れ、ハンカチで汗を拭いつつ出来映えをチェックする。
けど、

「えええええ! 全然ついてない……」

イメージとしては「くっきりとバラの花びらを散らしたような」跡を付けたはずなのに、蚊に刺された跡よりも儚げだった。

何かコツでもあるの?
それともラーメンをすするのさえ苦しい私の肺活量では、これが限度なの?

「はあー、びっくりした」

首筋をさする先輩はそれこそ虫刺されほどにしか感じていないみたい。

これでもダメ……。
跡こそ弱々しいけど、私の気持ちは伝わると思ったのに。


涙目を隠すために先輩に背を向けて手近なイスに座る。

もう諦めようかな。

先輩に彼女がいないことは知ってるけど、もしかしたら好きな人がいるのかな。
「この人を好きになるなんて私くらいだ」っていう思い上がりがよくないのかも。

私のものにならない人だから印がつかなかったんだ、きっと。
ゴムだって何年も経てば劣化して切れるけど、そこまで頑張る自信ない。

須藤先輩に「やっぱり行きます」って言ってみる?
付き合ってみたら好きになるかもしれないし。

気持ちを落ち着けるために深呼吸していたら、背後にやたら暑苦しい気配がした。

殺気……?

私を覆う大きな影がユラリと不穏に動いた瞬間。

「いいいいったーい!」

思わず全身を縮こまらせても、両肩を掴まれていて身動きできなかった。
首の後ろがしびれたように熱くて痛い。
もう何が何だかわからない。
涙も吹っ飛んだ!
呆然とする私のうなじで「ちゅっ」という音がしたけれど、衝撃が強くて感触までは感じられなかった。

一体何が起こったの!?

慌ててカバンから鏡を取り出して首筋を見ると、そこに咲いていたのは強烈なバラ!
それと噛み跡まで!?

「ど、どういうことですか?これ!」

慌てる私の“跡”を、先輩は満足気に指でなぞる。

「花火大会、行ってくれば? ヒマワリの浴衣着て」

いつも穏やかな先輩の声には、珍しく不機嫌さがあらわになっている。

「どこから聞いてました?」

「お兄さんがどうとかってあたり」

ほぼ全部じゃない……。

「でも、え?なんで? だって、今まで全然……」

「俺ばっかり本気だったら、って思うと怖かったから」

「最初からずっと本気です!」

逆に本気じゃないなら、あんたなんて選ばない!

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