フェアリーテイルによく似た

暑苦しいのを承知でまとめていた髪をほどく。

「髪、下ろせば見えないし!」

風で舞ったら危ないけど、普通にしていれば見えないはずだ。

すると先輩はまた肩を掴んで私を押さえ込む。
驚いて見上げると、先輩が再びクワッと口を開けた。

噛みつかれる!

ギュッと目を閉じて衝撃に備えたのに、予想に反してやさしく柔らかなぬくもりが唇を包んだ。
ぎこちなく、ただ触れ合わせるだけの。

それは誰かに見せるための跡じゃなくて、私に気持ちを示すためのもの。

できることならこのキスの方を形に残したい。
誰から見てもわかるような。
そして生涯消えないような。


半分夢の中にいた私は、先輩が離れた気配でようやく目を開けた。
日本全国こんなに猛暑なのに、私の唇だけとても寒い。

キスってすごい……。
とろんと見上げた先輩は恐らくさっきまでと同じ人のはずなのに、私の目には王子様に見える。

……言い過ぎた。
王子様には見えないけど、世界一素敵で、喜んで人身御供として身も心も捧げたくなるような熊か何かに見えた。

「……花火大会、行かない」

「うん」

噛み跡をなぞった時よりずっと優しく、私の唇には残っていないはずの自分の跡をたどる。

「今の俺には何もないけど、もう少し大人になったら花火なんかに負けない星空を見せるって約束するから」

「浴衣着て行ってもいい?」

「凍死するよ?」

やっぱりてるてる坊主はちゃんと吊るそう。
もう少し大人になった時の予約として。

その前に、この首筋のバラが散り終わるまでには、ちゃんと「好き」って言わせたい!


















『外見がどうとか、中身がどうとか、難しいことはわからない。浴衣の柄だって何でもいい。俺にはどうせ全部可愛く見えるから。それが君でさえあれば』


end


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