恋蛍2~トワイライト色の約束~
暑い暑い、と汗っかきのオレをいろはは涼しげな顔で笑い飛ばす。


「結弦くん、島の子やろ? にしては暑さに弱いなあ。昼からビールでも一杯ぐーっとやりはったら?」


「バカかあー。まだ未成年だしよー」


珊瑚の化石で造られた石垣の塀で囲まれた平屋の前に着いた時はもう、完璧に喉がカラッカラになっていた。


「あっ! おばちゃんの苗字や! こことちゃう?」


【島袋】と手彫りの木の表札を指差しながら、いろはが首を傾げる。


「正解。ここが葵先生の家」


「あーっ、やっと着いたわあー」


そして、安堵したのかようやくふうっと一息をついたようだった。


「おおきにね、結弦くん」


ショルダーバッグに手を突っ込んでゴソゴソと鍵を取り出すいろはに、葵先生からの伝言を伝える。


「いろはの部屋は玄関入って突き当たりのいちばん奥。で、荷物はもうそこに運んでおるってさ」


「うんうん」


「あと、腹が減りよったら、冷蔵庫にいろいろ入ってるからってさ」


いろはは本当に聞いているのか、適当に相づちを打っているのか、こくこくと頷きながら周囲を興味深そうに見渡している。


初めて目にする集落の風景がそうとう珍しいのだろうか。


完全に上の空だね。


「大丈夫かね? 聞いとったかね?」


心配になって苦笑いしながら確かめる。


「うんうん。大丈夫。それより、結弦くん」


あそこなんやけど、といろはがおもむろに指差したのは一軒のとある古い家だった。
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