恋蛍2~トワイライト色の約束~
虎太朗くんの後ろでは源くんと祐くんが「ひゃくまんえんだってさ」とヒソヒソ話している。


100万円なわけがあるか。


セールで安かったの、と母さんが言っていたのを思い出す。


あの水色のサンダルは今年の春に父さんと母さんが石垣島に出掛けた時に買って来物だ。


翔琉は目をぱちくりさせて、口をまんまるに開けながらいろはをじっと見ている。


「おい、翔琉! お前、女にまで頼らんとなんもできないのか!」


弱虫! 、と虎太朗くんのぶっきらぼうな声が周囲に響く。


翔琉は涙ぐませて、オレのハーフパンツを掴んで震える始末だ。


「あら、そらちゃうんやない?」


と言いながら、いろはは中腰になりなから虎太朗くんに近付いて行った。


「なにー? 姉ェネェ、誰ね?」


「うちか? いろは、や。よろしくね」


にっこり笑ったかと思えば、いろはは人差し指を虎太朗くんの額に突き刺すように押し付けると、ころりと声色を変えた。


「弱虫てなあ、あんたのことをしゃべるんよ」


「おれは弱虫じゃないっさ! 翔琉とは違うしさ! 木登りなんかアサメシ前だしね!」


それでも虎太朗くんは強気に言い返す。


「木登りもできんやつと一緒にするなよ」


「木登りでける子はアカンタレじゃないの? 強い子なん? 誰が決めはったの?」


バカなことしゃべるんやないよ! 、と強目の口調でピシャリといろはに言われた虎太朗くんも、ついに固まってしまった。


でも、何も言い返せないけれど、じっといろはを睨んでいる。


「あんたらみたいになあ、仲間と一緒じゃないと意地悪もでけへん子らを、アカンタレて言うんよ」


よーく覚えとき、とそのひと言を放ち、いろはが額から人差し指を離すと、虎太朗くんは顔を真っ赤にして悔しそうに唇を噛んだ。


でも、いろははそれではおさまらず、さらに虎太朗くんを挑発するような口調で言った。
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