恋蛍2~トワイライト色の約束~
「翔琉くんは木登りくらいできます」


そんなこと言って……。


どうなるか分かってるんかね。


この流れからいって、おれは嫌な予感でいっぱいで気が気じゃない。


「ウソさ!」


案の定、オレの嫌な予感は的中し、祐くんが食い付いてきた。


「翔琉に木登りなんかできんよ!」


「できます」


「へえ。なら、やってみろよ! 神さんの木からサンダル取って来てみろよ!」


と祐くんが面白おかしげにガジュマルの木を指差す。


ほら、みたことかね。


こういうことになると思ったんだよ。


「いや、ちょっと待て、いろは」


とオレが割って入ろうとしたら、いろはがまたもやとんでもない発言をした。


「ええよ。そんなら、よう見ときなさいよ。翔琉くんが木登りしはるから」


背後に隠れている翔琉が「えぇっ」と戸惑いの声を漏らす。


オレはたまらず割って入った。


「ちょっと待てって」


翔琉には無理さ。


ビビリの翔琉に木登りなんかできん。


確かに、ガジュマルの木はデイゴの木みたいにつるつるしてないし、足場もあるし、幸い、サンダルがあるとこもそんなに高いわけじゃないけど。


でも、そこに登ることができなかったから、泣く泣く芽衣ちゃんと一緒に逃げて来わけだしさ。


「いろは、翔琉にはむ」


「結弦くん」


「いや、だからさ」


と細い手首を掴むと、いろはは白い歯を見せてにっと笑った。


「嘘も方便、て言うやろ」


いや、でも、それは実際に嘘も方便になったらいいけど。


翔琉にそれができるとは……オレには思えん。


「でもさ」


「でもさも明後日もあらへんわ。結弦くんは黙っといてくれへん?」


そう言うといろはは、オレの背後に隠れていた翔琉の前にしゃがんだ。
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