恋蛍2~トワイライト色の約束~
「兄ィニィ……ぼくはね」


「ど、どうした、翔琉」


「あのさ、兄ィニィ」


ぽつり、ぽつり、と話し始めた翔琉が自分からいろはの手をほどいて、オレを見てきた。


「翔琉?」


「……なりたい……強く、なりたいっ」


翔琉のそんな声を聞いたのは初めてだった。


その声は広い浜にまんべんなく響くように、大きく、力強いものだった。


「強くなりたい!」


翔琉のそんな鋭い目付きを見たのもまた、初めてだ。


いつも自信なさげな弱々しい目付きばかりだったのに。


弟の力強い目を初めて目の当たりにしたオレは、胸を打たれてたまらない気持ちになった。


「頑張れ、翔琉! 兄ィニィ、ちゃんと見とるからさ」


こくりとしっかり頷いた翔琉がガジュマルの木に手を掛けた。


頑張れ、翔琉。


強くなれ。


そうさ。


翔琉はいつも強くなりたいと願っておったよな。


友達に言い負かされて泣いて帰ると、決まり文句のように翔琉は言う。


兄ィニィ、ぼく、強くなりたい。


今年の七夕の短冊にも「強くなりたい」と書いたことも知っている。


「そうや。そこに右の足かけてな」


木に登ろうと歯を食い縛る翔琉に、いろはがひとつ、またひとつ、アドバイスを入れる。


「次はな、その枝さんをつかむんや……そう」


その隣では芽衣ちゃんが固唾を飲んで、心配そうに翔琉を見守っている。


翔琉は弱音を吐かずに、いろはの言葉を頼りに少しずつ慎重にガジュマルの大木を登っていく。
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