恋蛍2~トワイライト色の約束~
ぐらりと傾く、1対のサンダル。


まだ、落ちない。


翔琉は「えいっ」ともう一度、右手を伸ばした。


「……あっ」


すると、水色のサンダルがトン、トン、と片方ずつ時間差で砂の上に落ちた。


「ぃ、やったあああー!」


虎太朗くんが右手を真上に突き上げて、我先にとガジュマルの木の根元に駆け寄って行く。


そして、1対のサンダルを拾うと、大振りの枝に股がり固まっている翔琉を見上げた。


「すっげえー! 翔琉ぅー! お前、でーじかっこいいよ!」


祐くんと源くんも、側へ駆け寄って行った。


「やったねー、翔琉!」


「なにさー! お前、木登りできるんじゃないかあ!」


自分でもまだ信じられないのだろう。


翔琉はしばらく呆然とした顔をして、


「なにしよる! 早くおりて来いよー!」


と虎太朗くんのその声を聞いてやっと、枝にしがみついたまま、照れ臭そうに笑った。


「うん!」


その声も、笑顔も、オレには自信に満ち溢れているように思えた。













「翔琉、今までひどいことばっか言ってごめんね」


登る時の倍の時間を掛けて木から降りて来翔琉に、サンダルを手渡しながら虎太朗くんが言った。


「今から、オレたちは仲間だよ」


そのひと言に、翔琉は驚いたように目をぱちくりさせる。


「えっ……ぼくも仲間に入れてくれるの?」


完全に戸惑っている。


当たり前さ、と虎太朗くんが翔琉の肩を小突く。


「そのかわり、約束だよ。困ったことがあったらさ、これからは結弦兄ィニィじゃなくて、オレたち仲間に言え。いいね?」


「虎太朗くんたちに?」


すると、虎太朗くんの横で祐くんと源くんもこくこくと頷いた。


「そうさ」と虎太朗くんも頷く。


「これからはオレたち仲間が翔琉を助けてやる。いいね?」


翔琉はやっぱり驚いた顔をしたあと、はにかみながら「ありがとう」と顔を真っ赤にした。


そんな翔琉にすすすっと近寄り、ちょっと聞きにくそうにして虎太朗くんが耳打ちをする。


「そのサンダルさ、本当にひゃくまんえんね?」


まっさかあ、と翔琉が両手をフリフリすると、虎太朗くんは今度はいろはに詰め寄って行く。


「エーエー! 姉ェネェ、ウソつきよーる! ウソはダメなんだしよー」


「あら? うち、そんなこと言うたあ? 聞き間違えはったんやないの?」


「へんな姉ェネェだねっ」


「おおきに、ありがとう。よく言われますー」


いろはにフフンと鼻であしらわれた虎太朗くんは、フンッと小生意気に鼻を鳴らし返して、


「行くぞ!」


と祐くんと源くんを誘って駆けて行く。


「翔琉! なにしよる? お前も来い! オレんちでアイス食べよ!」


駆けて行きながら、虎太朗くんが叫んだ。


「えっ! ぼくも?」


「あったりまえさー! 仲間なんだからさー!」


虎太朗くんたちはみるみるうちに遠ざかって、浜の出口付近まで行ってしまった。


「おーい! 翔琉ぅー! 早く来なっさー!」


祐くんの呼び声を聞いたか翔琉は、もじもじとオレの顔を覗いてくる。


行きたいけど、言い出せないのだろう。


「いいよ、翔琉」


オレは笑って翔琉の頭を撫でた。


「行って来い。夕方にはちゃんと帰ぇるんだよ」


すると、翔琉はぱあっと花開いたように笑顔になり、目を輝かせて元気いっぱいに頷いた。


「うんっ!」
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