恋蛍2~トワイライト色の約束~
『母さんと父さんね、この木の下で、初めて会ったの』


幼いころの記憶がフラッシュバックした。


あれは確か、オレがまだ小学生の頃で、翔琉がまだ母さんのお腹の中におった時だ。


不貞腐れるオレを見かねて、母さんが浜へ散歩に行こうかと誘ってきたのだ。


『あのころ、母さん、東京で嫌なことがあってね。毎日イライラしててね。今日の結弦みたいに』


その日、オレはほんの些細なことがきっかけで、大好きな律と大げんかして、完全にやさぐれとった。


『あ、見て、結弦。このキズ』


ガジュマルの木の幹にある小さな古傷にそーっと触れながら、母さんは言った。


風が強くて波が高い日だった。


母さん、この木にキズを付けちゃった。


嫌なことがあったの。


ムシャクシャして、我慢出来なくて。


みんな、みーんな不幸になればいいって思っちゃって。


『母さん、木の棒で殴って、神様の木にキズ付けちゃた。そしたらね、本当に良くないことが起きちゃった』


不貞腐れていたオレもそれを聞いたらさすがに驚いて、たまらず聞いた。


なにが起きたの?


でも、母さんはふふっと笑うばかりで、なにが起きたのかは絶対に教えてくれなかった。


『でも、その災いから母さんのこと守ってくれたのが、父さんだったの』


何度しつこく聞いても、母さんは絶対に災いのことは教えてくれなかったけど、ずーっと父さんのことばかり話しとった。


でーじ幸せそうな顔で。


あのころ、母さんも髪の毛が長くて一本に束ねていたっけ。


その時、一本に束ねた髪の毛にオレンジ色の夕日が染み込んで、キレイだなー、なんて思いながらオレは母さんの話を聞いていたっけね。


「結弦くん……結弦くんて」


何度名前を呼ばれただろう。


はっと我に返ると、いろはがガジュマルの木に触れながらオレを見て首を傾げていた。


「どないしはったの? ぼんやりして」


「ああ、ごめん」


なんでかね。


いろはと母さんは全く似ていないのに。


髪型のせいかもしれん。
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